埼玉エキセントリック

埼玉人ですが小説が好きです。埼玉人ですが小説を書きます。

3、一寸先は闇(其の参)

      2017/12/03

 さて、この暗闇は一体どのようにしてここに出現したのだろう。彼女のぬくもりを感じることのできるやわらかな僕らのベッドはどこに行き、雨音の聞こえる出窓はどこへ消えたのだろう。

 僕はこの数時間にいったい何を失ったのだろう。

 僕が求めていた彼女のいない1日は、こんなに変化に富んだものである必要などまるでないのだ。どうしてこんな面倒なことに巻き込まれているのだろう。いろんな思いが、一気に僕の頭に浮かんでくる。雨を重く含んだ雲が、たちまち青空を覆うように、心に影がかかる。そんな僕の気持ちとは違い、足元で背を伸ばしていたはずのシャドウは、何の迷いもなく、闇の中に足を踏み入れた。その姿はすぐ闇に飲み込まれ、首についた鈴の音だけが響いた。その躊躇なき姿に僕は感服した。もはやこのドアの向こうは奈落かもしれないというのに。これでは僕がシャドウのお供となってしまう。猫のお供になるつもりなど、僕にはない。だが事実、僕はシャドウのおかげで、足を一歩踏み出すこととなった。スタン・スミスのゴム底が、ギュッと音を鳴らしたが、その音もすぐに闇に飲み込まれた。一歩、一歩、慎重に歩みを進める。果たしてそこに道があるのか、障害物があるのか、そんなことも全くわからないままだった。自分が歩いているのか、そもそもこの部屋に重力はあるのか、それすらわからない。
 遠くから、シャドウの首の鈴の音が聞こえた。こちらへ、やや急ぎ足で近づいている。おそらくは彼も、あまりの暗闇に僕を頼って戻ってきたのだろう。どうして僕がここへいるのがわかるのか、それは動物の本能なのかもしれない。いつもはうるさく思う彼の首のその鈴の音が、今日はやけにたくましく思えた。

 - 猫の影