埼玉エキセントリック

埼玉人ですが小説が好きです。埼玉人ですが小説を書きます。

4、外はこんなに冷えているというのに(其の四)

   

 私はきっとこれから、自分自身の心の闇と対峙することになる。きっと。私の心の闇…。誰にも探られたくない、自分自身でも直視するのが怖いほどに、それは深く、暗く、何もない。「お飲みください」と、低音の声が渋い店主から勧められて、私は先程目の前のコースターに差し出されたジントニックを喉に流し込んだ。それはやけに冷たくて、私の喉は、燃えるように熱かった。
 
 その時だった。

 私の目の前の景色が、ぐるりと一回転した。一瞬の出来事に、何が起こったか理解できない。先ほどのあまりに突然の店主からの告知と、濃いめのアルコールに、きっとめまいを起こしたのだ。呼吸するのも忘れ、現実に戻りハッと息を吐くと、店主がすかさず、「おかえりなさい」と言った。私は何処かに行っていたのだろうか。何が起こったのか。「一瞬、めまいを起こされていたようでした」店主はそう言う。「帰ってこられてよかったです」店主は続けた。私は自分の周りに何が起こっているのか、理解できずに恐怖心を覚えた。ただ一つわかるのは、この現実から、私は逃げる事はできない。このままアルコールを飲み続ける気も、食事をする気にもなれず、「ご馳走さま」とだけ言い残し、お代を置いて、私は逃げるように店を出た。
 今日はあまりに理解できないことが多すぎる。

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