埼玉エキセントリック

埼玉人ですが小説が好きです。埼玉人ですが小説を書きます。

机上の空論でもよいのではないか(其の弐)

   

 シャドウについての話をしよう。
 僕と彼女が出会って、月に何度か食事をするようになって、その後に僕の部屋に彼女が来て、体を重ねて…それが週に何度かになり、もう彼女もここに住んだほうが何かと都合が良いということになった。世間の男女なんて、そんなものだろう。すると、まるで初めからそれは決まっていたことのように、シャドウも僕の家にきた(もちろん、彼女につれられて)。猫というのは環境の変化にとても敏感だというけれど、シャドウはそんなことはなかった。ごく自然に、サボテンが鉢のまま、どこかの雑貨屋のショーウインドーから、誰かに買われて、その誰かの部屋に置かれたみたいに、僕の部屋に慣れた。
 家でピアノを弾くと、シャドウもそこにくる。自分の存在が邪魔にはならないように、ピアノの脚のあたりに寝ながら、尻尾だけはゆっくり動かしている。
 彼女が仕事で家をあけているときにも、僕に気を許しているようだった。
 僕は、これまでの人生で、生き物を飼った経験はなかったけれど、シャドウに関して言えば、とてもかわいらしく、(家族とは言わないにしろ)愛着がある。自信はないが、シャドウにも、許されているような気もする。
 シャドウは、シャム猫だ。勇敢で、賢く、いまは深く、深い、暗闇で、僕を頼って歩いている。

 - 猫の影