1、虚無的扉の向こう側で(其ノ壱)
2023/02/19
廊下の先にある玄関の閉まるコトンという冷えた音で、僕はぼんやりと目を覚ました。目覚めには、大抵の場合いつも僕の腕の中には彼女がいて、起き抜けに僕は彼女の痩せた肩を撫でるのだ。しかし、昨夜の予言どおり、今朝はもう僕の腕の中に彼女はおらず、ベッドには彼女の抜け殻らしきブランケットの残骸があって、それにくるまって彼女がこの世界で唯一愛するシャム猫のシャドウが寝ていた(彼のことを文字に表記するとき、彼女は「シャドー」ではなく「シャドウ」なのだと、過去に僕に話した事があるため、便宜上ここでもそのように表記することにする)。目覚める時間帯には朝日が当たるはずのこの部屋が、随分と薄暗く、やけに寒かった。出窓からは、冬の雨の静かな音が聞こえた。そういえば昨夜見たニュースで、まるで工場で流れ作業の末に大量に作られたかのようにステレオタイプな顔のアナウンサーが、今日は雪になるかもしれないと嬉しそうな顔で話していた。