2、ピンヒールと網タイツについての考察(其の弐)
2017/08/28
彼の要求に応えあぐねていると、しばらくして、夢の淵からまだ完全には起き出せない彼から、穏やかなリズムの寝息が聞こえてきた。彼が完全に夢の世界へと戻って行ったことを確認して、私は素早く、ベッドから体を抜き去り、やけに寒いベッドルームを出た。
リビングも変わらず寒かったが、ストーブを点ければすぐに温まるだろう。 部屋が暖まるまえに、身支度を済ませれば、朝の時間をスムーズに過ごせそうだ。施してもほとんど映えない化粧をして、目の細かな網タイツと、タイトスカートに体をねじ込む。カシミアのセーターを着て、オードトワレをつければ、私の身支度なんて終わってしまう。ものの十分ほどの作業だ。
研究が行き詰まって(私は大学で講師業を仕事にしている)、打開策などほとんど見えなくなっていた。もうここ数週間そのような状態が続いている。論文の締め切りだけが迫り、気持ちが焦る。まずは気分を変えるためにと、化粧を変えても、下着を変えても、研究自体には変化はなく、まったく無意味な日が連続していた。バタフライエフェクトなんて、この世に存在しないのでは無いかと思う。しかし、そう思いながらも、そんな時には、やみくもに研究を続けるのではなく、近くのバーに行って、友人と話をしたり、全く見ず知らずの人を相手に自分語りをするようにしている。つまりは、そのようにして、気分転換をアルコールに頼っているのだ。
昨日も研究室帰りに、ただ行きつけのバーへ寄って、気分転換に、濃いめのジントニックでも飲もうと思っていただけだった。