埼玉エキセントリック

埼玉人ですが小説が好きです。埼玉人ですが小説を書きます。

2、ピンヒールと網タイツについての考察(其の伍)

   

 その日、私は、網タイツにクリスチャンルブタンのピンヒールを履いていた。足を組み替えてから、自然と彼の腕を掴んで、その手にある携帯電話は私のものであることを告げた。彼の目には動揺が浮かんでいた。一抹の不安も見て取れた。まるで、それまで気づかなかった蜘蛛の巣に、ひらひらと舞う蝶が捕まった時みたいに。あとは、私は運命の流れに身を任せた。気づけば彼と同じベッドで目が覚めて、彼の大きな腕に抱かれていた。そのまま恋に落ちた。恋に落ちた…?恋に落とした、といったほうが正確なのかもしれない。そんな打算的な私の考えを、彼は未だに、知る由も無い。
 あの時履いていたあのピンヒールを履いて、今日、私は、寒空の下コートも持たずに家を出た。

 - 猫の影