2、ピンヒールと網タイツについての考察(其の参)
おそらくそれが起こったのは、その時私の飲んだジントニックのせいだ。それはやけに冷たくて、私の喉は燃えるように熱かった。
彼と出会ったとき、私は別の男性と一緒に暮らしていた。平たく言えば浮気ということになるのだろうけれど、そのような思想は私の価値観ではない。その当時付き合っていたのは、年下の学生だった。アルバイトとバンドに明け暮れていて、愛し合っていたと言うよりは、むしろ、お互いの利害が一致していただけという関係にすぎない。彼は住む家とそれなりに生活できるだけの経済力と、そして、時々自分の性欲を満たす事の出来る複数の体(要するに私以外にも数名のセックスフレンドと呼ぶべき関係にある女性がいた)があれば、おそらく誰でも良かった。私も、時々一緒に話しながら食事をすることができて、適度に日常に干渉してきて、そして週に数回のセックスを共にしてくれる相手なら、彼でなくてもおそらくは満足した。
それはいつもより肌寒い、夏の終わりころだった。私は友人と会う約束をしていた。友人は、高校の同級生で、可愛らしい雰囲気の、グラマーな女の子だった。その子と同じ大学時代の先輩の、商社マンの彼と結婚をして、 男の子を無事産んで、その子をベビーカーに乗せて、会いに来るとのことだった。おそらく、私に会いたいというよりは、結婚生活の大変さや、出産の話をしたかったのだろう。そしてまだそのような機会に恵まれていない、かわいそうな友人に、聞いてもいない経験談を、自慢気に話すのだ。そんな雰囲気がもう会う前から読み取れて、私はその友人との待ち合わせに、乗り気ではなかった。