3、一寸先は闇(其の壱)
2017/10/31
ベッドルームの、金色のドアノブと木製のドアの前で、僕は立ち尽くし、足元には忙しなく尻尾を揺らしてシャドウが座っている。さて、このドアノブを回して、ドアを開けてしまうと、そこにはおそらく闇が広がっていることだろう。黒く暗い、深い、静かな闇が。先ほどのカタンという冷たい音が、それを予感させていた。
やれやれ、どうしてこんな厄介なことに巻き込まれなくてはならないのか。今日は、彼女の帰りが遅いというのに。彼女の帰宅時間が遅いということも、おそらくこのドアの向こうで起きていることとリンクしているのだろう。きっとそういう運命なのだ。運命には、誰も逆らえない。
僕は恐る恐る、ドアノブを握った。ドアの向こう側はもはやベッドルームではなく闇であるという「確信」みたいなものが、そこから伝わってきた。シャドウの尻尾の動きも、その瞬間ピタリと止まった。やはり僕は、このドアの向こうの闇と対峙しなくてはならないのだ。そもそも、その闇とは一体何なのだろう。
僕はその時思い直して、闇と対峙する前に、自分の身支度と、朝食を済ませることにした。サンドイッチをまだ口に入れていない。それに僕の今の格好は、学校で長いこと使われたモップのようにみすぼらしいものだった。このような格好で闇と対峙できるとは到底思えない。彼女が僕に似合うといった、薄いブルーのシャツと、黒いパンツに着替えよう。そして、サンドイッチで胃を満たそう。髭も剃らなくては。
おそらくいまから僕は、赤く照らされ過ぎた街に怒った神様が、黒い暗い夜でそれを包み込んでしまうほどの、何もかもを塗りつぶしてしまうようなその闇と、否が応でも対峙しなくてはならないのだ。